中国伝統医学の基本的理念  PARTⅡ
陰陽五行で人体を読み解く
陰陽論~陰陽五行論へ
陰陽論では万物発生時のカオス(これを太極と言います)の激しいエネルギーから「陽」が生じ、「陽」が極まって静止状態に落ち着くと、今度はそこから「陰」が生まれ、しかしが 極まると又ぞろ動きだして再び「陽」「転化」して行くと説くのです。

そして、この「陰」と「陽」はお互いに「対立」しながらも時には「依存」し合う、まるで夫婦のような(笑)と言うか、TV版と劇場映画版でコロッと変わる「のび太」と「ジャイあん」や「スネ夫」の関係と言うか周辺の状況に応じて一変する複雑な関係でもある
とするのです。
例えば
日本人のAさんとBさんを陰陽で比較すると、Aさんの方が明るい性格なのでAさんが「陽」Bさんが「陰」になります。ところが、陽気なラテン人のCさんと比べると、Cさんが「陽」で、さっきのAさんも今度は「陰」となってしまう。
要するに
陰と陽は相手次第で変わる相対的なもので、絶対的なものではないのです。それに、比べる相手が無くてはにもにも成らないのですから、当然ながら単独では存在しませんそしてラテン人のCさんの性格の中にも実は暗い陰部分と最も明るい陽部分があるはずです。つまり陽の中にも陰があり、陰の中にも陽がある訳です。
このように
プラスとマイナス、動と静、興奮と抑制、盛と衰などなど、相対する二つの事物の複雑な変化=「対立.依存.転化」人間の生命活動における物質と機能との相互関係にもマッチしている と古代中国人は考えたのです。
例えば
食物(陰)を食べなければ、つまりエネルギーがなければ内臓機能(陽)は働きません。しかし内臓(陽)が働かなければ食欲が出ないので食物(陰)が食べられない。
かといって余りに物(陰)を食べ過ぎると内臓機能(陽)がパンクしてしまい結局それが元で今度は食欲も無くなってしまう。(対立しながらも依存

そして、この「陰」と「陽」はお互いにどちらも片方では成り立たないし、かといって「陰」も「陽」も度を越すとバランスが崩れて病気の原因となる。と考えました。  腹八分目健康法の源でしょうね。

それに陰陽論では前述のように一定の段階を越えると、つまり量的な変化が極限に達すると質的変化を引き起こす と説いていますね。これが「転化」です。

自然界に例えると、夜の極みは夜明けを引き連れてくるし 2月の寒さは春3月を呼び込んで来ます。
病気で言うと、急性の熱性病の場合など高熱が長く続く陽状態の後に その熱が下がって顔色が青白くなり手足が冷えてくる陰状態が訪れてくると病気が陽から陰に転化したと表現するのです。

 
陰陽の具体的なイメージは何?

陰陽の具体的な「基本イメージ」は
天体においては「陰」は「月」であり「陽」は太陽(お日さま)です。


   ※現に現代中国語では「陰陽」は左の様に書い て
           「陰陽」の漢字は既に一般には用いられていません。


又一方で
陰陽の「基本的性質」のシンボルは「陰」は「水」「陽」は「火」です。


「水」の冷たい、上から下へ流れる=下降、などの性質 ~ 「陰」の性質
◆「火」の熱い、燃え上がる炎=上昇、明るいなどの性質 ~ 「陽」の性質

これらの水と火の性質から考えを進めて
以下のようにポイントを定めて事物を陰陽に分けています。
事物を陰陽に分けるポイント●
陰の属性   寒冷   下降   内向   暗   衰退   抑制   緩慢   静止   有形 
陽の属性  灼熱  上昇  外向  明  亢進  興奮  快速  運動  無形


自然界の陰陽比較表
     陰     地    月   夜   冬   北   内   寒   静 
     陽      天   太陽   昼  夏  南  外  熱  動

人体の陰陽比較表◆
 陰   女  内部    腹  足 屈側  血 虚証 寒証 弛緩
  陽   男   外部     背   頭  伸側  気  実証 熱証 緊張


陰陽のアンバランスが起こす病証
中国医学では以下の一覧表に示す様に,現れる「証の名」がイコール西洋医学で言う「病名」となります。実際の臨床では「陰陽」の虚実に「気、血、水」の状態等をプラスして、例えば「陰虚水停証」のように表されます。治療もその「証名」に応じた薬剤が選択されますので、西洋医学では同じ病名の方でも全く違う処方になることが多いのです。逆に西洋医学では全く別の種類の病気の方々でも「証」が同じであれば同じお薬を処方されるのです。もしも心臓病の方と腰痛の方が同じ「証」を現していれば同じ薬で治します。ですから臨床における「診断」とは「証」の鑑別に他ならないのです。

陰陽の一方の分量が
異常に多くなって起こす

Aー① Aー②
陰実証 陽実証
片方の
分量が
 多い
 実証の症状  呼吸が荒い 声高 
イライラ 胸苦しい 
腹部膨満感 
乾いた便
       
陰陽の一方の分量が
異常に少なくなって起こす

B-① Bー②
陽虚証  陰虚証
片方の
分量が
少ない
 虚証の症状  気力不足 無口 
手足がだるい 動悸
 めまい 
むくんだ感じの肥満
     
陰(寒)の分量が陽に
比べて多くなって起こす

実寒証 虚寒証
 陰が
 多い
 寒証の症状 寒がり 手足の冷え
のどが渇かない
軟便 尿量が多い
        
陽(熱)の分量が陰に
比べて多くなって起こす

実熱証  虚熱証
 陽が
 多い
 熱証の症状 高熱 のどが渇く
胸がむかつく 手足が
落ち着かない 
顔色、目元が赤い 
尿量が少ない


実証と虚証の鑑別方法
病症


治療
指針
  
代表的な症状
  脈 
舌の色
 
舌の苔
 
Aー①
陰が多い

寒証
(陰実証)

陰を
抑える
(瀉法)

しゃほう
 
悪寒、手足の冷え、
顔面蒼白痰
が出る 腹痛,, 
呼吸が苦しい
軟便、 色の薄い尿が多い
遅く
強い
赤みが
少ない
  白い
Aー②
陽が多い

熱証
(陽実証)

 
陽を
抑える
(瀉法)
 
発熱、のどが渇く、顔面赤い
目も赤い、腹が張る 腹痛
堅い便、尿量少なく色が濃い
速く
強い
赤みが
 濃い
 乾燥
 して
 黄色い
B-①
陽が少ない


寒証
(陽虚証)

 
陽を
増やす
(補法)
寒がり、顔色暗くツヤがない
冷え症 
活気 気力がない
 寝汗 軟便
 
色の薄い尿が多い
遅く
弱い
赤み
少ない
  白い
 Bー②
陰が少ない

熱証
(陰虚証)

 陰を
増やす
(補法)
不規則に熱っぽく成る
 頬が赤いのどが渇く 
何となく落ち着かない
不眠 手足の裏が熱い
 寝汗 乾燥便 
尿量少ないが色が濃い

細く
弱い
 赤い  少ない
※① 陰陽五行の考え方は生薬治療の際の診断に、より重点的に用いるの
 ですが、(実はツボの様な人体表層の変化は陰陽五行だけでなかなか掴みきれないものなのです)鍼灸治療の場合でも、左側(陰)に起こった症状を右側(陽)のツボで取り去ったり、上部の症状を下のツボを取って治療して 陰陽のバランスを考えます。

この陰陽論が更に発展を続けて、次に
対立、依存、転化と絶え間なく変化する、この陰と陽の繰り返しの紆余曲折の渦の中から「火(ひ)、水(みず)、木(植物)、金(鉱物)、土(大地)」の物資世界を構成する基本的な5要素が発生するという考えが出てきました。五行説です。

この5要素はお互いに一方の生みの親であり又別の一方の子である関係と、お互いにいさめ合う関係(ジャンケンゲーム的な関係)などを持ち、この五つの要素が相互に過不足なく働いた結果「陰」と「陽」がトータルとしてイコールに成り、万物全てうまく事が収まってバランスが保たれる、とする「陰陽五行論」に発展したのです。

パソコン風におおまかに要約すると、

主にハード的な性質を説く陰陽論と、それを動かすアプリケーションソフト的要素としての五行説で生命の活動を読み解いたものが中国医学と言えるかも。


※ この木火土金水の五行に陰の意味の「月」と陽の意味の「日」をプラスして
私達がいつも使っている「日、月、火、水、木、金、土」の七曜になったのです。
「日~土」の曜日を使って陰陽五行説を私達も日常生活に利用していたのですね。


◆五行の相関図式◆

親側   子側
母子関係



優位   下位
相克関係

五行の相関関係について
母子関係
「木」肝、胆は燃えて「火」心、小腸になる、つまり「木」肝、胆「火」心小腸の生み親である。 しかし「火」心、小腸は燃尽きて灰となって「土」脾、胃「火」心、小腸「土」脾、胃の親という訳で、5要素は全てこの様に「己を生ずるモノと己が生じたモノ」の関係上にある。
  
相克関係
「木」肝、胆「土」脾、胃から養分 を奪い、「土」脾、胃「水」腎、膀胱をせき止め、 その「水」腎、膀胱「火」心、小腸を消してしまう事が出来る。
 しかしその「火」心、小腸「金」肺、大腸を溶かす事が出来るし、その「金」肺、大腸「木」肝、胆を切り倒す事が出来る。 この様に お互いに一方にやられながらも 他の一方からは優位を保てる関係

乗侮関係
例えば「木」肝、胆が度外れに大きい場合
「土」脾、胃に勝るばかりか、本来負けるはずの「金」脾、胃まで脅かしてしまう。
 逆に「木」肝、胆が極小に成っていると本来勝っているはずの「土」脾、胃にもあなどられてしまう。この様に度外れな状態になって本来の立場に異変を来す関係
      
五行のこの3つの関係を用いて
主に病状の診断と行方を探ります


五行相関図について
肝から心の病に転化するのを「母病が子に及んだ」と表現したり 逆に心病から肝病に転化すると「子病が母を犯した」と言います。
「木」の肝を病んで長引くと「土」の脾の病に至ると予測したり腎(水)の衰えが心(火)の病を引き起こすのを「水」が「火」に克った と見なしたりして相関図で病の姿や変化を読み解きます。
 
五行色体表(一部抜粋)
  五行   
 
 
五色
  
五臓
五腑 小腸 大腸
>膀胱
五精 意(智
志(精)
五竅
五主
五労
五志
 喜(笑) 思(慮) 悲(憂) 恐(驚)
五悪
湿
五味
塩辛い
五行色体表について

顔色が青くて酸っぱい物を食べたがる人には、まず肝(木)の病気を疑ったり、逆に赤ら顔で口が苦い人には、心臓(火)に病気があるはずだとかの目安に使います。
又、脾(土)の病気(消化器系)なのに顔色が青い人の場合は、肝(木)も病んでいる又はまもなく病む可能性ありと診断します。
同じく心(火)の病気だと赤ら顔のはずなのに黒い顔だったら腎(水)にやられていると診断します。

この様に五行の色体表は五行の相互関係を判りやすくして刻々と変化する病症の相互関係を何とか事前に察知して先回りしたり、発端になった病気を探っていち早く病気の治療に役立てようと考え出されたのです。

私の経験でも、この表は原因の掴みきれない難病の方に使うと結構イケたりするのです。盲信はもちろん禁物ですが、長い歴史を経た観察と経験から出来たのですから現在でも利用価値はかなりあると思います。
以上、この「中国伝統医学の基本的理念  PARTⅡ 」は大変長~く成ってしまったので

更に大まかに次のページにまとめてみました

<今後の更新予定>
中国医学の基本的理念
PARTⅠ     その根幹をなす哲学について 
PARTⅡ     陰陽五行で人体を読み解く
PARTⅢ そもそも五臓六腑って何のこと?(臓腑論)
PARTⅣ    「気、血、水」ってどんなもの?
PARTⅤ  人間はどうして病気になるの(病因論)?
PARTⅥ   中国医学の診断術(四診)について
鍼灸事始め   溢れる好奇心を道連れに
PARTⅠ      経絡を科学してみる
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