★鍼についての4つの質問★ 名前 = K 性別 = 男性 age = 40~49 メッセージ = ①鍼には長くて太い中国鍼と短くて細い日本鍼がありますが効果はどのように違いますか? ②鍼の発祥地は中国だと思いますが日本にはいつどのようにして入ってきたのですか ③何故日本の鍼は短く細くなったのですか? ④鍼を打ったときに痛い場合と痛くない場合がありますが、痛い場合のほうがツボにはまってより効果があり痛くないのは余り効果が無いのですか? |
K 様へ 意義深いご質問を有難うございます。 質問順序が前後しますが まず鍼灸が大陸から日本に伝わったのは、 中国の文化が日本に伝わった時期とほぼ同じですね。 学校で歴史を学ぶ時に ”○○文化の伝来”という表現がよく使われますが この場合の最初に入ってくる”文化”とはほぼ「宗教」と「医学=医療」が中心で、つまり最初に外国から”伝来”して来るのはまずは「心」と「身体」に関する情報と言って良いでしょうから「ツボ」も「仏教」もほとんど同じ頃に中国から日本に伝わっているのです。 だいたい何処の国でもその国の歴史上最初の翻訳書は宗教書で次いで医学書みたいですね。 例えば現在でも最も発行部数の多い書物である「聖書」は 最初はギリシャ語(ヘブライ語)で書かれたものがローマ帝国に伝わり、 ラテン語に訳され、その後ヨーロッパ各地の言語にその言語における歴史上最初の翻訳本として登場します。 そしてその後にはやはり医学書が翻訳されているのです。 人間にとって一番大切な「心の平安」を得た後はやっぱり「命の安泰」がすぐに必要になりますからね。 古今東西この事実には国境は無い訳です。 東洋では日本もそうですが仏教書〔お経)が「聖書」と同じ感じですね。 ちなみに日本で最初の横文字からの翻訳本は杉田玄白や前野良沢らがオランダ語「ターヘルアナトミア」から訳した「解体新書」ですから、日本では横文字からの翻訳では宗教書「聖書」を抜いて医学書が先でしたね。 「医学」という名の「人間の生命活動に関する情報」は古今東西、如何に需要が多く翻訳が優先されるかは、もし今「ガンの特効薬」が発見されればアッと言う間に全世界に”伝来”するはずですから現在でも事情は全く同じです。 最初に日本に入った医学書類にはやはり中国医学の古典である「黄帝内経」や「神農本草経」などが含まれていたはずです。 中国医学書の古典「黄帝内経」は「素問」と「霊枢」の2部に分かれていて 「素問」が主に基礎医学、「霊枢」は解剖から治療法に及んで鍼灸やツボについて記載されています。この書物は3千年以上の歴史を持つ中国医学の集大成的な古典医学書です。(AD・400年頃に完成) 「黄帝」の書となっていますが実際には多くの者により長い時代を経て編纂されたとされる書物です。 現存する世界最古の「黄帝内経」=木簡書=は中国ではなく京都の仁和寺にあり日本の国宝に指定されています。 政変の著しい中国と違ってこの様な古典は日本のほうが保護管理が行き届いていたのですね。 中国文化は最初は朝鮮半島から渡来した様に、医師も天皇が重い病にかかる と朝鮮半島から呼び寄せていたようです。 ※充恭天皇を治療の為に医師”金武”が朝鮮より来日したのが414年ですから聖徳太子の時代よりもまだ200年ほど昔のことですね。 そしてAD562年に最初に中国〔呉)から帰化した医師である”知総”が多くの医学 書(164巻)と一緒に人体上に鍼灸のツボを記した図絵も持ってきています。 仏教が仏像や経典と共に伝わったのがこの”知総”の帰化のわずか10年前ですから、 如何に医学が文化の根幹として宗教と間断を置かず”伝来”するのかということが解 ります。 (この当時の10年が如何に短い期間であるかは、稲作が伝来する(弥生時代)までに縄文時代が何と何と約一万年近くも続いたのですから解りますね。 そして中国における鍼灸医学の基礎は日本で言えばこの弥生時代に築かれたものだと言われています) 現存する日本最古の医学書「医心房」30巻は平安時代の972年に俳優の丹波哲郎の先祖の丹波康頼が編纂した中国の医学書を要領良くまとめた貴重なものです。 元になった中国の原書類には既に全くその姿形を残していないモノも多く逆にそれらの書物の存在と記載内容がこの「医心房」によって確認されるという意味で中国の研究者にも希少価値があるそうです。 その第2巻が「医心房・鍼灸編」で私が持っている復刻版30巻の中からこの第2巻「鍼灸編」の「足の三里」について書かれたページをスキャナで取り込みましたので日本最古の医学書の「ツボ」に関する記載をご覧下さい。
鍼に関してですが当時は中国鍼がそのまま使われていたのでしょうが、徐々に「日本人向け」に 細くなったと思われます。 特に明治16年(確か1883年だったと記憶していますがひょっとすると記 憶違いかも)に「医者」は西洋医学を修めた者に限るとの法案が帝国議会で可決された後は漢方医は医師と見なされず鍼灸は病気を治す医学としての立場から補助的医療に後退を余儀なくされます。 後には”あんま”と同じ様に慰安目的としてのもっと軽い立場に変わり、ますますリスクを伴う痛い鍼は敬遠される事となります。
中国ではごく最近まで簡単な肩こりや腰痛などと違い多くの難病、慢性病までも治す場合が多く、患者さんの身体を大きく変化させる必要がありますから太くて長い鍼で大きな刺激が求められたのです。 鍼灸医学をめぐる社会環境の差が鍼を太くさせたのですね。 当院の松岡憲章が1973年に日中友好使節団の医療班として中国に渡りましたが、その時わずか27年前ですが、あの広大な中国全土に10億以上の国民が居ながらも西洋医学を修めた医師はたったの2千人しかいないと政府の役人が話していたそうです。 彼らのほぼ全員が外科医であったらしいので、中国では手術を必要とする病気以外の ほとんど全ての病気がほんの27年前でも如何に漢方薬や鍼灸のみで治療していたかが察せられます。 こんな状況では身体の細かなチェックが要り、手間ひまがかかる細い鍼では十分に役目を果たせません。鍼が太いと少々アバウトな治療でも効果が望めるはずだからです。 病気の苦痛に比べたら太い鍼の痛さ何ぞは一時のものですから患者さんも病気を治したい一心で我慢したのでしょう。 「日本人向け」とはこの鍼灸をめぐる社会環境の違いに加えて人種的な体質の違いが上げられます。 中国人には「剛」という表現がぴったりの筋肉を持った方が多く居ます。 皮膚の堅さや筋肉の密度がずいぶん日本人と違います。 つまり筋質が違う。 例えが悪いですが、一般に日本人が「ブロイラー」の様な柔らかくて緩い感じの皮膚、筋肉ならば、一般に中国人の筋肉は「地鶏」の様にコリッとしたしっかりと濃い密度なのです。 (やっぱエサ(?)違うもんね!) ですから当然筋力も違うはずです。 彼らは皮膚も堅く抵抗力があり、やはり余り細い鍼では刺激不足で身体を大きく変化させる事は難しいでしょう。 人種的な差異と共に食事内容や気候風土等々生活環境の違いが影響しているのでしょう。 つまり体質が同じ黄色人種でありながら かなり日本人と違います。 現実に中国人とお付き合いして色々とお話を伺うと各臓器も彼らの方がずいぶん強い様に感じます。 例えばお酒を飲めない人、つまり肝臓でアセトアルデヒトを分解出来ない人というのがほとんど居ないらしいですね。 日本人なら10人に一人位はいるでしょう。 胃腸も肝臓も日本人より強いですから中国製漢方薬でも日本人の適量は中国人の約半分だとよく注意を促されます。 それ以上飲むと日本人だと内臓に負担がかかり返って副作用が出やすいそうです。 つまり、薬でも中国人の半分量で日本人には効くように鍼刺激も中国人の半分量で十分効果を発揮すると考えられるのです。(良く言えば体質的に日本人のほうがデリケート?) ですから細い鍼でも日本人には必要十分な効果が生まれるはずと言えるでしょう。 それから、性格的なものも違いますね。概しておおらかな人が多い中国人に比べて元来不安感が強い神経質な日本人は鍼刺激に対しても敏感で恐がりな人が多いみたいですね。 鍼に対する信頼感の違いも大きいでしょうが、それだけではない感じです。 中国人鍼灸師が同じような中国鍼を日本人と中国人を並べて打っているのを横で見ていると、中国人は全員無言で堪えているのに対して日本人は大半の人が悲鳴を上げていましたからね。 痛みを我慢するくらいなら多少の副作用があっても薬のほうが増しだと思う日本人も多いようです。 最も最近では中国も上海、北京などの都会を中心として鍼は非常に細くなっています。 改革開放が進んで西洋医学を修めた医師がどっと増えたり、 文化の発達による生活環境の違いによって彼らも出来るだけ苦痛の少ない楽な治療を選択する様になったのですね。 もう一つのご質問の鍼の痛みに関してですが、まず痛みの質が問題です。 中国語では痛みを表現する言葉が幾つもあるのに日本語では一つしか有りませんね。 例えば「しびれるような痛み」は「麻」=マーといって「痛」=トゥンとははっきり区別した使い方をするようですが、 日本語だと「鈍痛」も「鈍い痛み」という風に「痛み」という言葉は必ずくっ付けて使いますね。 ちくちく棘を刺す痛みや皮膚を切り裂くような鋭い痛みは鍼治療本来の効果を示す痛みではありません。 もっと奥の深い重力(G)が鍼を通じて身体にピンポイントでかかってくる感じと言いますか、極めて重さのある差込むような感覚が正しい鍼の響き(得気)ですね。 症状によって又は鍼のテクニックによって効果を示す鍼の「痛み方」は様々に違いますが、一般に他の部位にまで広く鍼の響きが伝わっていく感じが有る方が良いのです。この伝達性向(経絡)により遠隔部の手足のツボからでも内臓などの患部に刺激が至り、その自然治癒力に対してより一層の働きかけを行い病体を変化させる効果を生むと考えられるからです。 「ツボ」にぴったり鍼が当たるとこのような鍼の響き=「得気」が起こります。 (この響き方を言葉で全て表現するのは難しいのですが・・) 鍼治療の「得気」では前述の「麻」=マ~と表現する鍼を刺した所を中心にして 周辺が感電してしびれる感じの痛み方が多いですね。 他には「酸」と表現する、鍼を打った所から皮膚の内部が収縮してだるい感じの鍼の響き(日本風に言うなら痛み方?)もあります。 しかしまったく無痛の鍼というのはハッキリした病気治療の場合は大きな効果は望みにくいと思います。 つまりその人の症状に応じた「ツボ」にぴったり鍼がはまるとこの「得気」が起こるはずだからです。 これは日本の細い鍼でもしっかりと起こりますから全く無痛の鍼というのは病気の診断や「ツボ」が外れている可能性が大ですね。 単なる肩コリを解す鍼治療などでは強い「得気」は無くても良いのですが、急性病を始め少なくともちゃんとした病気治療の場合は無痛の鍼では即効は望めませんね。 もしも出来るだけ痛くない鍼で治すならば長い時間をかけて少しずつ体を変えて行くことになります。 体質改善などを狙って徐々に身体の歪みを調整する治療や自律神経のバランスを図る治療では時間は多少かかるでしょうが、痛くない鍼でも効果があると思います。逆に言えば日本の鍼はこのような徐々に無理無く体質調整するにはリスクが少なくて適していると 言う事に成りますね。 |
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