★ 鍼の消毒 ★
> 名前 = O・M
> 性別 = 女性
> age = 20to29
> メッセージ =>
> はじめまして。鍼治療に関してとても心配なことがあり、他に相談できるところもなくわらにもす がる思いで質問します。よろしくお願いします。
> 鍼治療のことはまったく詳しくないのですが、息子(一歳二ヶ月)の夜泣きやぐずりのひどさが気 になり、色々調べていたところ、このサイトで小児鍼のことを知りました。鍼を直接刺す訳ではな いということだったので安心して、とりあえず軽い気持ちで、近所にある、”小児はり”と看板のある鍼灸治療院を訪ねました。
他に患者さんもおらず、先生はかなりのご年配でいらっしゃいました。
私が、小児鍼でぐずりや夜泣きが治ると聞いたのですが…というと、治りますよとのことだったのでそのままおねがいしました。
しかし入ってみると、診療室は昭和の時代にタイムスリップし たかのような古さ、さらに先生は特に手を洗うでもなく、かばんからとりだした銀のケースから鍼
> をとりだし、素手で鍼をしごいてならべて、そのまま息子のお腹、背中、頭に順に刺していきまし た。
私は、刺さないものと思っていたので、またびっくり、そのままぼうぜんと見守ってしまいま した。
治療が終わってから、鍼は消毒してあるのですか?と聞くと、してありますよ、との応えで したが、特に説明も無くどうにも心配でたまらなくなり、かかりつけの小児科医に相談したとこ ろ、念のために血液検査を受けてはどうかと言われ、大事な子供のことなのにあまり深く考えず夜 泣きなんて治そうと思ったばっかりに、と悲しくなってしまいました。
帰ってこのサイトをもう一 度見させていただいたところ、オートクレープの写真等が載っていて、私の行った鍼灸院にはこんな最新の機械なんてなさそうだったし、ちゃんとこういうことも調べていけばよかったと愕然としてしまいました。
しかも鍼治療にもかかわらず息子は今夜もかなり夜泣きしています…
> もし、消毒がいいかげんであったとして、実際、鍼治療で肝炎ウイルス等に感染してしまう恐れ等 はあるのでしょうか?
小児科医のすすめるように血液検査は必要だと思われますか?私の行った治療院は、後で調べたところ、一応、県の鍼灸マッサージ師会員には登録されているようだったので、今時消毒が不十分だなんてあるだろうかとも思い直してみたり…私の心配は杞憂なのでしょう
> か?一方的に長い文章に多くの質問申し訳ございません。お返事よろしくお願いします。


ツボ探検隊です。
結論を先に言いますと、心配はご無用ですよ。
そもそも鍼は注射針とはまったく違います。
「注射針=注射器」は昔、鍼治療を見学したヨーロッパ人(フランス人)が身体に刺した鍼を通じて体内に薬が入るともっと薬がよく効くはずだと考案したモノなのです。
(鍼はフランス・イエズス会の宣教師を通じて、17世紀に中国からヨーロッパに伝わったと言われています。同じ頃に長崎の出島に来ていた同じイエズス会の他の宣教師も鍼治療を受けていた記録が残っています)

鍼をアレンジして出来た注射器は内部は薬が通るためにストローの様な「筒」に成っています。薬液が通過した針(筒)の内側は腐敗する可能性を持つ薬成分が付着して残り、消毒は容易では有りません。それで現在の病院では全て使い捨てですね。

しかし、治療用の「鍼」は内部を薬が通過する「筒」ではなく単なる金属の「棒」です。「棒」ですと細菌が繁殖する場を内部に持ちません。
従って細菌が付着する可能性を持つのは鍼の表面積だけです。
またこれが一番に大事なことですが、実際には皮膚を通過して鍼が内部にはいるときに鍼の表面は人体が持つ皮膚免疫作用によって消毒されてしまいます。
私たちの皮膚は自然な状態で既に細菌を除去する免疫力を持っているのです。
(例えば大腸菌に手で触れても、手の皮膚から体内に感染することは無いのです。
皮膚に傷口でもない限りは感染は口や鼻から飲み込んだ場合だけです。)

これが数千年も昔から続いている鍼治療のすばらしさなのです。
はっきり言ってしまうと、鍼の起源から鍼治療とは消毒をしなくても人間の持つ皮膚免疫作用により感染の危険もなく治療できることを最大の特徴、長所とする治療法なのです。
鍼治療が何千年も昔からあることを知っている人は多いのですが、実は消毒を必要としない優れた治療法だったことを知っている人は案外といない様ですね。

日本でも鍼治療は千年以上の歴史を持つのですが、消毒をして治療した記録など無いのです。
昔は盲人の鍼灸師が多かったのですが、そもそも目の見えない人達には消毒薬の管理などはできなかったでしょう。すべて自分の手で鍼先をしごいて表面に付着したゴミなどを取って治療をしていたのです。(もちろん目の見える助手を雇って仕事をしていたわけでは有りません。)
何故、消毒をしなかったと思いますか?
答えは簡単です、鍼治療で病気に感染した例など誰も聞いたことが無かったからです。

(今NHKで放映している「チャングムの誓い」では鍼治療が登場しますが、必ず(?)まったく消毒しないで病人役の人に鍼を刺しています。実に正しい時代考証です。もしもこの番組が日本で製作されていたら、きっと鍼を打つ前に消毒する場面が有るように思います)

使い捨て鍼とか、激しく消毒を言い出したのは、近年の事で、特に騒ぎ出したのは、エイズ患者が増大した時期のアメリカからでしょう。
これは麻薬を注射針で回し打ちしてエイズ感染が拡大したので、鍼でも同様に細菌やウイルス感染をするはずだと思ったのでしょう。
鍼の歴史が無いのですから仕方ありませんが、いったんその様に疑われてしまうと鍼で感染しないことを証明するのはお金も時間もかかって大変なことですから、あらぬ疑いがかからない様に必死で消毒することに成ったのです。

もっとも注射針は確かにものすごく感染しますね。
中国では今も病院で日常的にやっていますが、昔は「ツボ注射」を日本でもけっこう行っていました。
ツボ効果と薬物効果の一石二鳥を狙ってツボにビタミン剤などを直接注射で打つのです。
私もずっと以前にはツボ注射で感染して足やお尻のツボが赤く腫れた人をいくらも見た経験があります。
「やっぱり注射ってのは鍼と違って危ないんだな~」とそのとき強く思いました。
現在では有り得ませんが、昔は何かと大胆かつ大雑把で鍼灸師でもこっそりツボ注射を打っていた人がいたようです。
しかし今や医療機関も不都合が起きると直ぐに訴訟騒ぎになるご時世です。
もしも肝炎などに罹った患者さんから、以前に受けた消毒不十分な鍼治療が疑わしいなどと申告されてしまったら、 どうでしょう?
これが濡れ衣だと証明することは現実的には絶対に不可能です。

ということで、感染、感染と騒ぎ立てだした近年に鍼灸師に成った若い人ほど消毒には熱心です。
一方で40年以上やっている古い鍼灸師は消毒しなくても感染例が無いのを長年の経験で知っているので、消毒には無頓着です。
盲人の老鍼灸師さんでは全く消毒しないで鍼を行う人もまだいくらも居られるようです。
しかし、感染例の有無はともかくとして世間の感染への危機感は煽られるばかりで、もしも何らかのアクシデントで訴えられたら、間違いなく廃業です。
今や訴訟への自己防衛のために、これでもかというほどに、目に見える形で消毒をしたり、使い捨て鍼を用いる風潮が世界中の鍼灸界に起きてきました。

これらは実際に起きた感染例によって対応しているのではなく、「消毒をしない鍼で治療をされてしまうと感染する」と思っている人たちの「不安を消すため」です。
最初から不安を持って治療を受けると、「逆プラシボ効果」で何が起きるかわからないのも人間ですからね。これが怖いのです。

繰り返しますが、
元来の鍼治療は人間が持つ皮膚免疫を用いて、消毒をしないでも感染の危険が無い治療ができることを最大の長所とすることで、消毒用アルコールなど無かった大昔から伝承されている非常に合理的、実用的な治療法です。
万が一にでも感染の可能性があれば鍼治療は「鍼を刺す=痛い」という心理的抵抗を超えて、その上にまだ「感染する可能性がある」という、二重に大きなリスクを持つことになり、「万策尽きた死に病」でも無い限り、誰も受ける気になりません。

軽い病気で受けた鍼で重い伝染病に感染してしまったら、バカらしくてやり切れません。子々孫々まで鍼は受けるなと言い伝えるでしょう。
つまり、そんな例が有ればとっくに淘汰されて無くなっているはずです。

とは言っても時代は刻々と変化しています。
免疫抑制剤や抗生物質の過度な使用で本来の免疫力を落としたり、耐性菌を作ってしまったりしています。
我々の身体が変わってきているのも確かなことです。
いつの日にか皮膚免疫の極端に落ちた人が鍼治療院に現れない保証はありません。
そんな「いつの日にかの人」のために細心な鍼の消毒は今では欠かせないのです。
どこも零細な鍼灸院ですからワンストライクでもバッターアウト=廃業ですからね。

しかし、現実には日常的に抗生物質や免疫抑制剤を使っている人以外、つまり今現在重篤な病いに罹っている人以外では、消毒しない鍼で治療しても感染する可能性は先ずありません。
ということで、貴女が訪れた年配の鍼灸師さんは長年の経験から、悠長に素手で鍼をしごいていたのでしょう。敢えて云えば、「手でしごいて」自身の皮膚免疫作用で消毒していたとも言えますね。
「猛者」と云いますか、私には既にそんな勇気はありませんので、いっそ内心でちょっと痛快な気もします。
一度でも肝炎などに感染させてしまえば、多大な賠償金の支払いで、その治療院は潰れてしまっているはずです。
気楽に指で鍼をしごいていたのは、ずっとそうやっていても何事も無かった証で、心配無用だということです。
ただし、貴女をそのように不安にさせたことは重大な失敗ですね。
手で鍼をしごく仕草に驚いている貴女に気づいて、鍼は痛いけれども感染はしないことを大きな長所として昔から伝わっている治療だと十分に説明すべきでした。
もうひとつ、小児鍼は普通は刺さないものです。
その点も少し疑問です。

それから、
夜泣きは私どものサイトで紹介している方法を先に試してください。
http://www.shinkyu.com/burashi.html
これだけで、けっこう多くの赤ちゃんが治っています。
方法はページで紹介していますので、熟読してください。
決して力任せにこすらないこと。最初の日は少し弱い目に行って様子をみること。
効果が無いのは刺激が弱過ぎで逆に夜泣きがひどくなった場合は刺激が多すぎたときです。


追記
思い出しましたが、私が鍼を習い始めた頃は誰もが素手でしごいたものです。つまり、これは人間の手が持つ皮膚免疫で鍼を消毒していた訳ですね。
昔は患者さんの治療をするときにはしっかりとアルコール消毒しても身内や自分自身に打つときは余りしなかった様に憶えています。
私も自分に鍼を打つときはいつも服を着た上から打っていました。
服を脱ぐのが面倒くさかったのです。
そんな風に着ている服の上から何百回となく自分に打ちましたが、鍼を打った跡が赤くなったり、何か起きたことはもちろんゼロです。30年くらい前の話です。
しかし、人間というのは不思議なもので、いつの間にか私自身も感染恐怖症に洗脳されてしまったのでしょう。
今では自分自身に鍼を打つときも面倒くさがらず服を脱ぐ様に変わりました。
身内に打つときも無意識にきちんと消毒しています。
我ながら不思議な気がします。

「感染問題」といえば鍼灸師自身が治療中の患者さんから血液感染する危険性の方が現実的です。鍼灸師は患者さんを選べませんからね。


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