★ ツボ治療が失敗する時 ★

名前 = つぼた
性別 = 男性
age = 40to49
メッセージ =
ツボを間違えて押すと反って病気が悪くなるのですか?
それとか始めに押したツボが良くても後から間違えたツボを押して始めのつぼの効果が帳消しになってしまう事もあるのですか?


つぼた 様へ
確かにツボの選択が間違って効果が帳消しに成ることはあり得るのですが、理論的に考えられるほどには多くは無いと思います。
何故ならツボの効果は一般に絶対的なものではなくて相対的なものだからです。
例えば薬の場合ですと、血圧を下げる働きをする降圧剤は高血圧の人でなくて、もしも低血圧の人に飲ませたとしてもやはり同じ薬理作用が働いてしまいもっと血圧を下げて全身の機能を低下させ大変なことになってしまいます。

ところが「ツボ」の場合は普通はこのようには働かないのです。
ツボ刺激による効果はあくまで所謂自然治癒力〔自己修復力)をバックアップする形で働きますから、その効果は「双方向性」を持つことに成ります。
つまり、同じツボを刺激しても高血圧の人には下げるように作用し、低血圧の人には上げるように働きます。
もっとも病気が慢性化していたり病み上がりで体力が衰えている人は自然治癒力も弱くてツボ治療も注意深く行わないと「双方向性」も怪しくなり非常に失敗しやすいのです。

※自然治癒力を詳しく言うと、ウイルスや細菌などの異種を判別して排斥、排除する力、衰えた器官や組織の機能を元に戻そうとする力、損傷した細胞や組織を再生する力などで、これらを総称して「自然治癒力」と呼んでいます。その中でも最も大きなパワーを必要とするのはおそらく「再生」でしょうが、これは日常的に私たちも自分の目でその存在を確かめる事が出来ます。
ちょっとした切り傷や擦り傷はじっとその傷を眺めると刻一刻と損傷した細胞が修復され新しい皮膚として生まれ変わって来るのが解ります。膝小僧を擦りむいて皮膚をすっかり剥がしても一週間後くらいには真新しい皮膚にお目にかかれる事はおそらく誰でも一度は経験していますよね。
膝の皮膚の一枚くらいは1週間程度で造ってしまう再生力を持っているのです。
再生以外の力の存在は目で確かめることは出来ませんが、一日の疲れが夜ぐっすり眠ると翌日には取れていたりするように人間が生きている間は常に働いているはずです。ところがこの様な力が有るにもかかわらず人間は病気になるのですから、やはり自然治癒力にも限界があるのですね。
この限界に挑戦するのがツボ治療であるとも言えるでしょう。
ツボを使って治療を進めていると、難しいと思われていた症状が実にあっさりと治ってしまうケースに事欠きません。
「自然治癒力」と名づけられた自己修復プログラム(リカバリー)の作動中にもたった一つのファイルが足りなくて修復作業が止まっていたり、或いは修復プログラムが次のステップに進む為に必要なパスワード(きっかけ)を求めながら右往左往していたかの様な身体状況時にツボはこの求められている要素をバックアップする形で上手くはまると驚くべき効果を生むように思います。

先日の新聞にアメリカで妊娠中絶薬〔故意に流産させる薬)が認可されたと出ていたので思い出したのですが、間違ったツボ選択で治療を行うことを「逆治」と言うのですが、実は妊娠中絶(流産)を目的としてこの「逆治」は人口増で悩む中国でよく試されていたらしいのです。
しかし実際には健康な妊婦さんには「逆治」を行っても自己修復力が強く、ほとんどのケースで効果(??)が無く立派な赤ちゃんが生まれたそうです。

ツボ刺激は生命の自己修復プログラムをバックアップするように働きかけるのですから、微分係数は限りなく「正」であり、従ってその刺激波のベクトルは常に本来のあるべき健康体へと向けられているはずです。ですから、本当に健康な人を故意に悪くするためのツボ治療は返って難しいのです。

と言うことは間違ったツボ選択による影響はその治療を受けた患者さんの自然治癒力の中の自己修復力次第と言えます。(患者さんの体力次第!)
元々が丈夫な人だと多少の失敗も自分自身の体力で自己修正してしまうのですが、体力が特に弱っている人ではやはりツボ選択を間違うとひどい事になります。
特にツボ選択の正否が治療中にすぐ分かる疾病は喘息ですね。
うまく行くとすぐに咳が止まり顔色も良くなりますが失敗すると余計に咳込みがひどく成りますので、ツボ治療ミスは誰の目にも明らかに成りますからね。

この機会にツボ治療の失敗について少し記したいと思います。
まず大まかに分けると、
①効果が全く無い場合 
②返って症状が悪化した、或いは全く悪くなかった部位が悪くなって新たな症状が出現する場合

の2つでしょうね。
ではこの2つの治療失敗ケースについてその原因を考えてみましょう。

①の効果がまったく無い治療はどのようにしてなされたのでしょうか?
a)診断の失敗=ツボ選択の誤り  
診断の誤りでツボの選択が違っていた場合や症状とは無関係なツボを刺激した場合であっても
治療を受けた本人の自己修復力で取りあえず余計に悪化することは防いだケース

b)治療の失敗=ツボへの刺激量の誤り
例えツボの選択が正しくとも刺激量が余りに少なすぎると病気の山は動きません。
a)のケースとも重複しますが、ツボの選択が間違っていても刺激量が余りに少ないと効果が無いだけで大きな問題は起こりません。
しかし何の効果も無いのは実は治療の失敗の中ではまだマシですね。

一番の問題である
②反って症状が悪化した場合は何故その様なことになったのでしょう?

a)診断の失敗=ツボ選択において大いなる間違いを犯した場合
上記の「逆治」に成ってしまったケースですね。
その人の病状からは最も行ってはいけないツボばかりを刺激してしまった場合です。
基本的には治療を受けた患者さんの体力次第で悪化の仕方は違ってきますが、慢性病で体力が衰えている人や病み上がりの人では数日間寝込んでしまうケースも有り得ます。しかし、個人差は有っても時間がたてば徐々に自然治癒力により自己修復していきます。
薬の副作用と違って時間がたてば元に戻る場合がほとんどです。(不可逆性の変化ではない)

b)刺激量が多すぎた場合
反って悪くなるのはこのケースがダントツ一番多いと思います。
たくさんのツボを使ったり、強く長くツボへの刺激を続けたりするとこの様な問題を起こしがちです。
過ぎたるは尚及ばざるが如しで念には念を入れて治療をすると余計に失敗しやすいのがツボ治療の特徴です。少なすぎると蚊が刺したみたいで何の効果も無く、多すぎると余計に悪くなる可能性も大きいので刺激量の調整は本当に難しいのです。つまりは多少の手抜き治療ぐらいが失敗が少なく無難であるとも言えます。
よく「自分は鍼治療が合わない」という方がいますが、たまたま受けた治療の際に針灸師が刺激量を間違えたケースがほとんどでしょうね。
こういう人はおそらく見かけの様子よりも体力の無い人で針灸師が刺激量の見積もりを誤りやすいタイプではないでしょうか。
私自身の感触ではツボ治療で余計に悪くなる失敗は刺激量の過多による場合の方がおそらくツボの選択の間違いよりもはるかに大きいと思います

某国立大学医学部教授の退任記念の著作に「研究モデルになった患者の病気は治り難い」と書いてあって非常に納得した覚えがあります。
研究対象になった患者の病状は事細かに観察され、その結果に応じて薬の処方も頻繁に変わり、ともすれば「木を見て森を見ず」に成りがちでしょう。これでは瑣末な症状に惑わされ易く、どうしても病気の本質が曖昧になり治療が長引いてしまうはずです。
要するに患者を「いじり過ぎ」てしまうのですね。
症状の「いじり過ぎ」は反って病気を奥に追い込んでしまう場合が多く、病気を複雑化させて治りにくくします。

ツボ治療もこれに全く同じです。
例えば一人の患者さんでも目が疲れる、頭も痛い、肩がこるし腰も痛い足もだるいし、食欲が無い上に便秘で不眠であるなどと実に多くの症状を訴える人が居ます。
もしこれらの症状に応じて一々ツボを取っていてはこの方の病気は治りません。
むしろ病気の質(タチ)をどんどん奥深く複雑にしてしまい回復を遅らせてしまいます。
枝葉末節ともいえる各症状に目を奪われること無く、これらを引き起こしている病気の本質を見定める診断と治療が何よりも大切なのです。
この病へ至った「最初の一歩」、つまり発端となった「ボタンの掛け違い」が何であったかを見落としては治療は成功しません。

※ちなみに上記の様なあらゆる症状を訴えるケースではまず「うつ病」が隠れていないかを疑って、生活環境などもお聞きしますが。

私の経験から言っても患者さんの訴える辛い症状と病気の本質とは実を言うとかなりかけ離れていることがほとんどですね。
どういう症状を一番苦しく感じるかは、多彩な要素によって個人差が大きくて、電話などで症状をお聞きした後で実際に身体を診察させていただくと見ると聞くとは大違いをいつも実感しています。
患者さんは一般的に云ってご自分の身体のどこが本当に悪いのかは分かっていないというのが私の長年の経験から得た持論で、ツボ治療を成功させるには患者さんの細かな訴えに惑わされない(病気の本質と大局を見誤らない)診断力が必須であると常々思っています。
治療する側も余りに患者さんに入れ込み過ぎると枝葉末節に惑わされてどうしても根本治療を見失いがちなのは西洋医学も中国医学も全く同じなんですね。

つまりはこういう事ではないでしょうか。
病気になると人の自然治癒力はきっかけとなった問題個所に自己修復プログラムのベクトルをストレートに向けて
表面的には見えなくとも刻々と修復の方向へ身体機能は働いているはずですね。
ところが病気の本質から離れた付随的な症状の治療を外部から逐一行ってしまうと条件反射的に患者の治癒エネルギーも付随症状を起こしている個所に向かって行き、その結果どうしても最も修復すべき根本部分へ向かっていた自己修復パワーが拡散されて弱くなってしまい病気の核心部分の「病い抜け」が困難になってしまう。
早い話、患者さんを「いじり過ぎ」て自然治癒力の働きを邪魔しない治療が臨床ではもっとも大切なわけです。
しかし、これは一歩病気の本質を見誤ると見守っている間に適切な処置が遅れる危険性もありますから、経験や能力がもっとも必要な難しい技術でもあります。このスキルこそ間違いなく「名医」の必須条件でしょうね。


最後に治療事故に関してですがツボ治療でも特に鍼治療の場合は、胸膜を突き破って肺にまで針先が達して気胸を引き起こす失敗が一番大変ですね。
この場合も鍼を胸部に深く刺さないことは当然ですが、その他にも長期療養者、老人などリスクの高い人を見極めて治療を行うこと、治療の際の体位に事前に十分気をつけることなどが守られていると起こり得ないのです。
どうしても胸に深く刺す必要がある場合はその時だけレントゲン撮影時のように呼吸を止めてもらうとまず大丈夫なんですが。
太い鍼を使う中国では神経障害を引き起こす例も多々あるようですが、日本の細い鍼では滅多にありませんね。
鍼による感染は意外なほど無いです。


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