名前 = T・M 性別 = 男性 age = 30to39 メッセージ = 1)後天的な内反先足の原因には何が考えられますか。 2)内反先足が起きた直後、MRIおよび筋電図をとり、その結果、腰椎の異常が確認されなかった場合、この内反先足の原因は何であると考えられますか。患者は過去に椎間板ヘルニアの手術を受けており、10年以上、術後の経過は良好だった。疲れたときなど時折、足のしびれを感じたことはあった。 3)内反先足が起きた後、神経剥離の手術を行ったところ、陽陵泉付近に神経組織の瘢痕化が確認され、「ひ骨神経損傷」と診断された場合、これが、内反先足の原因と考えられますか。 4)また、所見によって、この瘢痕が外力によるものであることが立証された場合、この外力として想定される因子は無数に考えられるのですが、その中に、鍼は考えられるのでしょうか。 5)鍼が神経を損傷することがある場合、どのような施鍼をすれば神経を損傷させてしまうのでしょうか。鍼の太さ、深さ、先端の鋭利性、操作の方法など。 何卒、よろしくお願いいたします。 |
T・M 様へ 早速ですがご質問への私の回答です。 Q1) 後天的な内反先足の原因には何が考えられますか。 A1) 原因と成りうる代表的な疾患は、中枢性=脳血管障害、 末梢性=腰部椎間板ヘルニア、脊椎間狭窄症、その他類似疾患。 総腓骨神経麻痺 rare caseではこの他に色々考えられるでしょうが、 私の診療所では脳血管性のものが大部分です。 Q2) 内反先足が起きた直後、MRIおよび筋電図をとり、その結果、腰椎の異常が確認されなかった場合、この内反先足の原因は何であると考えられますか。患者は過去に椎間板ヘルニアの手術を受けており、10年以上、術後の経過は良好だった。疲れたときなど時折、足のしびれを感じたことはあった。 A2) 腰部の異常が完全に否定されれば、それより末梢に原因を求めるべきでしょうね。 ただ、腰椎(腰部の誤りでは?)に異常が確認されなかったと言っても、それが責任病巣ではないと決めつけるのは如何なものか。 私ども鍼灸師の立場としては、MRI、筋電図の結果如何に関わらず腰部に「ツボ反応」があれば腰部を要治療ポイントと判断して治療を行います。 Q3) 内反先足が起きた後、神経剥離の手術を行ったところ、陽陵泉付近に神経組織の瘢痕化が確認され、「ひ骨神経損傷」と診断された場合、これが、内反先足の原因と考えられますか。 A3) 腓骨神経麻痺を起こせば内反先足になります。 Q4) また、所見によって、この瘢痕が外力によるものであることが立証された場合、この外力として想定される因子は無数に考えられるのですが、その中に、鍼は考えられるのでしょうか。 A4) 私の約30年の臨床経験(延べ治療患者数約20万人)では刺鍼によって神経損傷を起こしたと疑わせる症例はありません。 尤も、中国に於ける事故例報告書によると足三里、陽稜泉の刺鍼で一過性の運動及び感覚麻痺は起こしているようです。 中国鍼は私の鍼刺激よりも数倍強いのが一般的ですから、ごく稀には発症例があるようですね。 但し報告では全て可逆性とのこと約1ヶ月以内に元に戻っています。 そこで、ご質問の不可逆性の大きな損傷が刺鍼で起こり得るかと問われれば、実際問題として私は”否”とお答えします。 Q5) 鍼が神経を損傷することがある場合、どのような施鍼をすれば神経を損傷させてしまうのでしょうか。鍼の太さ、深さ、先端の鋭利性、操作の方法など。 A5) 中国の先生方が特に技術的に粗雑or稚拙であるとかは考えられませんから、神経を損傷させたケースではやはり鍼の太さは関係有るかも知れませんね。 (日本の鍼よりも相当太いのが普通ですから) どの様に施術すれば損傷させるかは判りません。 何しろそんな研究は全くしておりませんから(笑) 私にもしも類似の失敗例があれば、原因を追求して、可能性の一つや二つはお話しできたかも知れませんが、そんな経験は全くありませんので悪しからず。 この様なご質問を頂いた事自体に刺鍼について少し誤解が有るように思いますので説明させていただきます。 鍼は一般的には、皮膚及び筋肉に打つモノであって、「神経」に向けて打つものでは有りません。 皮膚及び筋肉等が変化し、ツボ反応として認知された、その場所(ポイント)に打つのです。 その部分の鍼の刺入により最初の空虚な如何にも頼りない感じの内部の筋肉が徐々にしっかりと充実してくる変化を又は刺入時には堅く重い鍼が内部の好転により柔らかく滑らかに成るのを、鍼を持つ自分自身の指先で常に確認しながら注意深く刺入作業を行っているのです。 鍼が必要以上に太くなると、弱って衰えた皮膚及び筋肉部でも時には相当の抵抗を示すはずですから空虚で衰えた部分のレベルの診断が困難になり、それは同時に治癒までの治療回数(及び予後)の予知判断(治療指針)も狂わせます。 又刺入スピードが速いと健康な部分でも反射的に堅く重い感じに成ってしまいます。 確かな診断と治療には慎重な刺鍼が大切なのです。 私たちの鍼は注射針とは根本的に違うモノです。 筋肉は何層にもなっていますね。同じ場所(ツボ)でも深さによって筋肉の状態は異なります。 従って、同じ場所(ツボ)上でも弱った層の筋肉は強めるように、堅い筋肉層は柔らかく成るように鍼の刺入深度を上下に変化させながら、その部分(ツボ)における筋肉各層の状態を一様に成るように施鍼しているのです。 その為には鍼の刺激は本当に適度なものでなければいけません。 それは一般的にはかなり軽い刺激で十分なのですよ。 「神経を損傷させてしまう施鍼」のご質問は少なくとも「細い日本鍼」を使って長い間鍼灸医療に携わる私どもには想像外のご質問ですが、恐らくその様な危惧を抱いておられる方が他にも居られると仮定してQ&Aに掲載したく説明させて頂きました。 (勿論、匿名にさせていただきますが不都合がお有りでしたら取りやめます。その際はご連絡を) その他にも何かあれば遠慮なくご質問下さい。 |
★鍼による神経損傷の可能性は? PartⅡ ★ 名前 = M.K メッセージ = ご回答ありがとうございます。とても勉強になりました。 そして質問の仕方が、たいへん不躾な恰好になってしまったことを反省しています。 >腰椎(腰部の誤りでは?)に異常が確認されなかったと言っても、それが責任病巣ではないと>決めつけるのは如何なものか。 私は、鍼灸の医学的な効果をはじめ、東洋医学の成果・可能性を十分理解しているつもりです。鍼灸に対する何らの偏見も持ってはいません。 質問は、なるべく「断定」を避け、「~の場合」としたつもりだったのですが、単にそれは字面上の問題で、私の真意が「断定」的なところにあるとお感じになったのかもしれません。 正直に申し上げて、そうした感情が100パーセント無いと、否定することはできません。 けれども真実や事実に直面するためには、そうした感情を極力切り捨てていかなければならないと、頼りなくはありますが、考えております。 うまく表現できないのが面映いのですが、鍼灸を揶揄したり否定したりする気持ちは全くありませんので、どうかご理解下さい。 私の母親は、施鍼(中国鍼)のあと、左脚の激痛におそわれ、そののち先足になり、症状固定、障害者5級に認定されました。施鍼の前後で症状が大きく変わったため、症状の変化と施鍼との間に何らかの因果関係があったのかどうか係争中でもあります。 先生にこうしたメール以上のご迷惑をおかけすることは毛頭ありません。 不躾な質問の数々は、今回の係争について私なりに勉強したいという、ただそうした気持ちだけです。 いえ、正直に言えば、何か原告に有利な材料はないか、という浅ましさも手伝っています。 >私の約30年の臨床経験(延べ治療患者数約20万人)では刺鍼によって神経損傷を起こし>たと疑わせる症例はありません。尤も、中国に於ける事故例報告書によると足三里、陽稜泉>の刺鍼で一過性の運動及び感覚麻痺は起こしているようです。 >中国鍼は私の鍼刺激よりも数倍強いのが一般的ですから、ごく稀には発症例があるようで>すね。 但し報告では全て可逆性とのこと約1ヶ月以内に元に戻っています。 私が見聞きし知っている鍼も、危険なものではありません。 鍼灸に関連するホームページをあちこち検索しても、鍼による事故例は一過性のものがほとんどのようでした。 >どの様に施術すれば損傷させるかは判りません。>何しろそんな研究は全くしておりませんから(笑) 素人の発想はこうです。たとえば、使い捨て鍼でない場合、何回か使用した後、切っ先に磨耗が生ずるようなことはないか。 もし、そうした鍼が誤って神経に当たってしまった場合、神経に与えるダメージが大きくなるのではないか。ツボに最適深度以上の深さで施鍼するとどうなるのか。 こんなことです。あまりにも一般的でない疑問なのかもしれません。 もしも何かご示唆いただければ幸いです。(見なかったことにしていただいても結構です) >Q&Aに掲載したく説明させて頂きました。 問題ありません。 先生のご好意に甘え、またメールする折には何卒よろしくお願いいたします。 |
T・M 様へ 事情をお伺いしてご質問の意味がよくわかりました。 やはり、前回のメールでは神経損傷が鍼で起こる事を暗に期待(?)しているようなニュアンスを感じていました。 ご事情からそれは仕方ないことでしょう、お察しいたします。 しかしやはり、申し訳ないのですが、私の返答は基本的には変わりませんね。 医師の治療で神経根に向かって注射をする事は日常的に行われていますがそれでも神経損傷は普通起こしませんよね。 中国でも「穴位注射法」といってツボに向けて注射を打つ方法もやってますが何も問題は無いようです。 増して、神経に向かわず、筋肉に注射針より細く、薬液(異物)を注入するという刺激も与えていない施鍼な訳ですから、それがお母さんの先足の直接の原因とは思えないのです。 例え、摩耗して、不潔な鍼を適切な深度より遙かに深く刺したとしてもですよ。 実は昔は日本でも、そして毛沢東の号令下で中国でもかつては「はだしの医者」と呼んで即席の鍼灸医が農村部で活躍していた頃はそんなことは日常的に当たり前の様にやっていたことですからね。 当時の劣悪な環境の施鍼でも、やはりその後に障害を残すような結果になった報告は私の調べた限りでは無いですね。 元々粗悪な作りの鍼を消毒もせず、摩耗するに任せて、骨にぶつかるまで深く刺す、鍼治療とは元来そんな野卑とも粗暴とも思える側面を持ちながらも、人間が元来持つ生命力(免疫力)の強さで、その事で特に問題を起こす事もなく、多くの病気が治ることで発達、継承されて来た治療法ですから。 今は貴方もご存じの様に現代人に合わせて繊細な鍼を使ったり、消毒に多くのエネルギーを注いだりと鍼灸治療も昔とはずいぶん様変わりして来ています。 ところで最初に「私の返答が基本的には変わらない」と申しました「基本的」についてですが、貴方のお母さんが、実際に鍼治療を受けていた最中に特別な大きい痛みや異変があったかの点が不明であった為その様に付記しました。 それがあれば可能性はゼロではないかも知れませんが、無ければ、ゼロだと思います。 時を同じくして起こった病症変化なのではないでしょうか。 松岡憲章 |
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