中国医学は、古代中国の哲学理論である、陰陽論と五行学説という二つの考え方を
基本理論としています。特に陰陽論は「易」からでたもので四柱推命など占いに興味
のある方はご存じでしょう。
自然界の一切の事物、人体の生理、病理に対する認識、さらに病気の診断、治療に関
する理解等、あらゆる分野の内容が、陰陽五行説で説明されます。
< 陰陽論 >
宇宙の万物は全て陰と陽に分かれていて、お互いに対立しながらも同時に
依存しあっている関係で、陰が極まれば、それは陽に転じると考え、絶対
的な関係ではなく相対的な関係にあると言います。
例えば、天は陽、地は陰。 昼は陽で夜は陰。
陰陽は相対的に調和されていてこそ(バランスを保つ)生理状態が維持で
きるのであり、調和が失われる(バランスが崩れる)と、病気が発生する
原因となると考えられていました。陰が多すぎると陽を足す治療をして
崩れたバランスを戻す=治す、と考えるのです。
(陰陽論を知らなくても、陰気や陽気などの言葉を私達も日常的に借用し
て使っていますね。)
** 陰陽比較表 **
陽 |
男 |
太陽 |
昼 |
夏 |
南 |
気 |
背 |
腑 |
陰 |
女 |
月 |
夜 |
冬 |
北 |
血 |
腹 |
臓 |
< 五行説 >
万物は、木、火、土、金、水(もく、か、ど、ごん、すい)という
五つの基本物質で出来ているという考え方です。これを五行と称しました。
そして、この五つの物質で万物の相互の現象を説明します。
これら五つの物質はいずれもどれかの生みの母であり同時に子である関係
=相生関係 ともう一つ、お互いは奪いつつ奪われるという関係
=相克関係にある。と言うのです。
五行説とはこの五つの物質の存在と、これらの関係性(相生と相克)を説明
したものです。
相生関係を解りやすく
例えれば「木が燃えれば火を生じ、火が尽きれば灰、つまり
土を生じ、土の中からは金属を生じ、金属の表面には水を生じ、水は木を
成長させる」という関係でです。
相剋関係とは、「木は土の中より養分を奪って育ち、土は水を吸収して貯め、
水は火を
消し、火は金属を溶かし、金属は木を割り砕く」という循環関係です。
そして、五行の相生の中には相剋が含まれていますし、相剋の中には相生
が含まれています。
相生だけで相剋がなければ平衡が保てず、相剋があって相生がなければ万
物は変化できない、といったように、五行説は人間と関係がある
現象と物質を木、火、土、金、水の五つの要素に分類して、その相互間系
を説明しているわけです。
人体の臓器も、木は肝、火は心、土は脾、金は肺、水は腎と当てはめて
これに陰陽論をミックスして五臓を陰と陽のバランスで捉えて健康状態を
判断します。これが中国医学の診断の基準なのです。
*五行相生. 相剋関係の図
例えば、表のように五臓は配されています。
「怒り過ぐれば肝を傷り、喜び過ぐれば心を傷り、思い過ぐれば脾(胃
腸)を傷り、悲しみ過ぐれば肺を傷り、驚き過ぐれば腎を傷る。」(病
症)
これは東洋医学の五行理論に基づくもので、五つの臓器(肝、心、脾、
肺、腎)の診断、予防、治療法をうまく表現しています。
また、逆の見方もできます。
つまり、下の様に・・・
・肝が悪いと怒りっぽくなる
・心臓が悪いと良く笑うタイプの人が多くみられる
・脾(胃腸)の弱い人は常に沈み込んだり考え過ぎて思い患いしやすい
・肺の悪い人は悲しみに沈みやすい
・腎の悪い人は諸事に恐れおののく−。
** 五行の色体表 **
味 |
傷み易い場所 |
声 |
香 |
病症 |
五労 |
刺激 |
色 |
方位 |
季節 |
自然 |
五臓 |
酸 |
筋 |
呼 |
|
怒 |
筋 |
風 |
青 |
東 |
春 |
木 |
肝 |
苦 |
脈 |
笑 |
焦 |
喜 |
血 |
暑 |
赤 |
南 |
夏 |
火 |
心 |
甘 |
肉 |
歌 |
香 |
思 |
肉 |
湿 |
黄 |
中央 |
土用 |
土 |
脾 |
辛 |
皮毛 |
哭 |
腥 |
憂 |
気 |
燥 |
白 |
西 |
秋 |
金 |
肺 |
齒+成 |
骨 |
呻 |
腐 |
恐 |
骨 |
寒 |
黒 |
北 |
冬 |
水 |
腎 |
< 五臓と五色 >
五色とは、青、黄、赤、白、黒の五つの色を指し、先の五臓の病変は
この五色の変化をともなって現れるという考えがあります。
・肝の病は青く
・心の病は赤く
・脾の病は黄色く
・肺の病は白く
・腎の病は黒く
それぞれの色で皮膚に、特に眼瞼に変化が現れるというものです。
これらの五色は当然、はっきりとした色調を伴うものではありませ
んが、健康人、あるいは健康な状態の時に比べて相対的な色変が見
られるという意味です。
例えば、高血圧の人の赤ら顔、肺を患っている人の白い肌など、現
在でも一般的に知られているようなものもあります。
< 五臓と五味 >
酸(すっぱい)、苦(にがい)、甘(あまい)、辛(からい)、鹹(
塩からい)の五つの味を五味といい、前述してきたこととおなじよう
に、五臓とそれぞれ深い関係があります。病気があれば味覚も変わり
、また、味覚によって食べ物の好き嫌いもわかることから、問診の一
つの手段として重視されました。「素問」に、−肝その味は酸なり、
心その味は苦なり、脾その味は甘なり、肺その味は辛なり、腎その味
は鹹なり−とあります。
・これは、酸っぱいものが好きであれば肝を悪くし。
・苦いものが好きであれば心を悪くし。
・甘いものが好きであれば脾(胃)を悪くし。
・辛いものが好きであれば肺を悪くし。
・塩からいものが好きであれば腎を悪くする。
ということです。
また、過食すると・・・
・肝では筋(スジ)が疲れ、舌がもつれる。
・心では体毛が抜ける。
・脾では髪が抜ける。
・肺では爪が枯れる。
・腎では顔色が悪くなる。
というそれぞれの対応も意味して
います。したがって、好きであれば過食の傾向にあるので、偏食を避
け、食事内容の調和を保つことの大切さを同時に教えているわけです。
< 五臓と五悪 >
これも五行説の一つで、五臓に対して気象が影響を及ぼすことをあら
わしたものです。−心は暑を悪み、肺は寒を悪み、肝は風を悪み、脾
は湿を悪み、腎は燥を悪む− とあります。
つまり、心の人は暑さを嫌い、また暑さに弱い。
・肺の人は寒さを嫌い、寒さに弱い。
・肝の人は風にあたるのを嫌い、風に弱い。
・脾の人は湿気を嫌い、湿気に弱い。
・腎の人は乾燥を嫌い、乾燥に弱い。
とそれぞれの対応を意味するわけです。
この五臓と五悪の関係は、例えば普段より、あるいは他人より寒気が
ひどくこたえるとき、まず、肺の病かどうかを考えるべきであり、さ
らに、肺病のときには寒気をできるだけ避けなければならないことを
同時に教えています。
いずれにせよ、健康を保持するためには、気候の変化に順応すべきで
あり、逆らえば風、寒、暑、湿、燥が五臓に悪影響を及ぼし、病変の
原因となるということです。
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